【日本語に活きる中国故事】「三々五々」集まって食事しただけ
自民県議40人がホテルで会食、「三々五々集まって食事しただけ」(読売新聞オンライン、2020/12/26)
埼玉県が大人数での会食自粛を県民に求める中、自民党県議団(50人)の所属議員のうち約40人が12月定例会閉会後にホテルで会食をした。それに対して、同会派に所属する議会議長が、「三々五々集まって食事をして帰っただけで、会食を行ったという認識はない」と釈明したとのこと。コロナによる諸々の自粛要請が始まって以来、中央、地方を問わず、他者の範となるべき為政者によるこの手の話は枚挙に暇がない。
「三々五々」ということばは、李白の「採蓮曲」という七言古詩に見られる。
若耶渓傍採蓮女(若耶渓のあたりで蓮の花摘む女たち)
笑隔荷花共人語(笑いさざめきハスの花を隔てて語り合う)
日照新粧水底明(陽照は化粧したての顔を明るく水面に映しだし、)
風飄香袖空中挙(吹いている風は香しい袖を軽やかに舞い上げている)
岸上誰家遊冶郎(岸辺にはどこの浮かれた若者だろうか)
三三五五映垂楊(三々五々としだれ柳の葉影に見え隠れ。)
紫留嘶入落花去(栗毛の駒は嘶いて柳絮のなかに消え去ろうと)
見此踟厨空断腸(この女たちを見ては行きつ戻りつむなしく心を揺さぶられる。)
(和訳は漢詩総合サイト「漢文委員会 漢詩07」より)
どこかの浮かれた若者たちが、三々五々と枝垂れ柳に見え隠れしながら、蓮の花を摘む乙女たちの気を引こうとしている情景を描いた名作である。
「採蓮曲」というのは元々、蓮の根を採る秋の労働歌だったが、李白は、中国四大美女に数えられる西施がここ若耶渓で蓮の花を採ったことに喩えて、柳絮舞う晩春の淡い恋歌に仕上げたと言われる。
(瀬戸 2022/2/23執筆)