【日本語に活きる中国故事】オンライン総会は「一長一短」
オンライン総会は一長一短 感染拡大防止も薄れる熱気、質疑不十分(SankeiBiz、2021.6.18)
コロナ禍が長期化する中でピークを迎える株主総会は、感染拡大防止のためにオンラインを活用した「バーチャル株主総会」の急増が予想される。ただ、それでは総会の熱気が薄れ、質疑が不十分なまま議事が進む“シャンシャン総会”の頻発という副作用も生みかねないと伝える。
オンラインの一長一短は、大学での授業に関してもしばしば話題になる。特に、いきなり全面的なオンライン授業を強いられた2020年度は、教師も学生も手探りで試行錯誤を続けたが、それから丸二年、オンライン授業の長所と短所が見えてきつつある。
「一長一短」の語源は定かではないが、次の故事が由来ではないかと言われる。
龍之為蟲,一存一亡,【一短一長】,龍之為性也,變化斯須,輒復非常。(龍という動物は、時には存在し、時にはいなくなる。体は【時には短く、時には長い】。龍の性質は、変化がすばやく、いつも繰り返し変わる。)(王充・『論衡』無形)
この故事では、「一短一長」であり、しかも物理的な長短を言っているが、日本語の「一長一短」は「長所もあり短所もある」ということを意味することから、これが由来だと言い切るのは多少心許ない。
日本語の例をもう一つ挙げておく。日本人なら誰もが聞いたことのある昔話「こぶとりじいさん」に、太宰治が新たな解釈を加えたものである。
瘤は孤独のお爺さんにとつて、唯一の話相手だつたのだから、その瘤を取られて、お爺さんは少し淋しい。しかしまた、軽くなつた頬が朝風に撫でられるのも、悪い気持のものではない。結局まあ、損も得も無く、【一長一短】といふやうなところか、久しぶりで思ふぞんぶん歌つたり踊つたりしただけが得、といふ事になるかな? など、のんきな事を考へながら山を降りて来たら、途中で、野良へ出かける息子の聖人とばつたり出逢ふ。(太宰治「お伽草紙」)
(瀬戸 2022/3/21執筆)