日本語に活きる中国故事

外国人の不法就労を「助長」

中國故事

今私たちが話している日本語の語彙や言い回しの中には、中国の故事を起源とするものがたくさんあります。このコーナーでは、それらをわかりやすくご紹介します。随分前に当時の社会情勢に絡めて書いたものも織り交ぜながら掲載します。古いものはタイムスリップしてお読みいただけたら幸いです。

【日本語に生きる中国故事】外国人の不法就労を「助長」

「不法就労助長罪」というのがある。読んで字のごとく、外国人が不法就労を行うのを「助長」するような罪のことである。

不法就労とは、外国人が許可のない資格外活動で収入を得たり、不法入国者やオーバーステイ等の者が就労することであり、このような人を雇用したり就労を斡旋したりすると、不法就労を「助長」したということで、冒頭の罪に問われる。

「助長」とは、孟子が語った「抜苗助長」(苗を引っ張って生長を助ける)の故事に由来する。

宋の国に、畑の苗がなかなか伸びないのを心配して、それを手で引っぱって伸ばした男がいた。男は、ぐったり疲れて家に帰ると、家族に、「今日は本当に疲れた。【苗を引っ張って早く伸びるように助けてやったよ】」と話した。それを聞いた息子が急いで畑に行って見ると、苗はすでにみな枯れてしまっていた。(『孟子』より)

この故事の【 】でくくった部分の中国語が「助苗長」で、「苗の生長を助ける」ということ。ここから「助長」ということばが生まれた。

この故事に由来するということから、「助長」は本来、マイナスの意味で使われたのだが、日本語では、「国際交流を助長する」のように、プラスの意味で使われることもあるようだ。(プラス用法は筆者には馴染みがないが。)

ところで、東京の池袋や歌舞伎町で売られている中国人向け新聞に、数年前から行政書士の広告が目立つようになり、「黒転白」と謳っているという。「黒(違法)を白(合法)に変える」ということらしい。悪徳ブローカーに取り込まれて違法な手続きを代行しているようで、警視庁が近年、取締りを強化している。

それを報じた某紙のタイトルが「<行政書士>警視庁が監視強化 外国人の不法就労助長」であった。頼まれた申請が虚偽とは知らなかったと否認された場合、必ずしも冒頭の「不法就労助長罪」で立件できるわけではないが、他の容疑で「不法就労を助長」したことを罪に問うているという。

(瀬戸 2010/08/14執筆)

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