日本語に活きる中国故事

マウンドに立つと“平成の怪物”に「豹変」

中國故事

【日本語に生きる中国故事】マウンドに立つと“平成の怪物”に「豹変」

・女性部下の態度がいきなり「豹変」した上司の悩み(東洋経済ONLINE、2021.10.19)

・「相続で別人に豹変」コツコツ1億円貯めた人を待ち受ける“意外な落とし穴”(PRESIDENT Online、2021.10.21)

「豹変」とは、それまでの言動や態度ががらりと変わることで、この2例のように、しばしばよくないほうへ変わることに使われると説明されるが、必ずしもそうとは限らないようである。

・野球を離れたら、当時のどこにでもいる18歳だ。それが、いざマウンドに立つと“平成の怪物”に豹変。投げる度に社会的なニュースとして扱われる。(Number Web、2021.07.17)

今季限りでの「現役引退」を表明した松坂大輔氏を評したものであるが、ここの「豹変」はよいほうに変わったと理解される。

つまり、日本語の「豹変」は、よいほうに変わるか悪いほうに変わるかはともかく、「言動や態度ががらりと変わる」ことを言うことばだといえよう。

ところが、このことばは、本来はそうではなかった。「豹変」は「君子豹変」から生まれたことばで、次の故事に由来すると言われる。

君子は、豹の毛が秋になってがらりと美しい紋様に変わるように、自分の過ちをきっぱりと改めて善に移る。小人は表面的に態度を改め、君子の言うとおりに従う。(易経・革卦[かくか])

つまり、「君子豹変」は本来、よいほうに変わることに使われたということである。

最後に、日本語の例をもう一つ。

・「トランプ氏は君子豹変を」 安倍総理、TPPで期待感(テレ朝news、2016.11.15)

当時の安倍総理は、トランプ氏が「TPP撤退」から方向転換することを期待して、次のように述べたという。

「『君子豹変す』。これは自分のために自分の保身で豹変するのではなく、それが国や国民のためになるという判断の中でメンツを捨てて判断する。それが我々、指導者に求められる姿勢ではないか」

「君子豹変」の語源を汲んだ使い方だと考えられる。

(瀬戸 2022/1/10執筆)

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