今私たちが話している日本語の語彙や言い回しの中には、中国の故事を起源とするものがたくさんあります。このコーナーでは、それらをわかりやすくご紹介します。随分前に当時の社会情勢に絡めて書いたものも織り交ぜながら掲載します。古いものはタイムスリップしてお読みいただけたら幸いです。
【日本語に生きる中国故事】「美人薄命」が連想される好感度No.1女優の死
昨年8月に「好感度No.1女優」として親しまれていた大原麗子さんが亡くなった。享年62歳。1999年にギラン・バレー症候群を患って以来、芸能界から遠ざかっており、自宅での孤独死だったという。映画やドラマでの華やかな栄光とは裏腹に、2度の結婚が破局に至るなど、私生活は必ずしも恵まれなかった。某紙が大原さんの死を「〈美人薄命〉ということばが連想される」と評していたのを思い出す。
「美人薄命」とは、美人は病弱であったり、数奇な運命にもてあそばれたりして、不幸な者や命の短い者が多いということ。「佳人薄命」とも言い、宋の詩人・蘇軾(そしょく)の『薄命佳人詩』がその語源と言われる。
双頰凝酥 髪抹漆(両頬は白くきめ細かく、髪の毛は漆を塗ったように黒々としている)
眼光入簾 珠的皪(簾ごしに見える眼は、珠のように輝いている)
故将白練 作仙衣(白絹の法衣を身にまとい)
不許紅膏 汚天質(唇に紅をさすことは許されない)
呉音嬌軟 帯兒痴(呉の地方のことばは艶かしく、どこか子供っぽい)
无限閑愁 総未知(この世の数限りない愁いも知らないでいる)
自古佳人多命薄(古より佳人は多く薄命である)
閉門春尽 楊花落(門を閉ざしているうちに春が過ぎ、ヤナギの花も落ちてしまう)
ここでいう「佳人」とは、色街の歌妓のことで、容姿が衰えると、ひっそりと仏門に入り、誰に知られることもなく死んでいったのだという。
「美人」が総じて薄命であるわけでもなかろうが、在りし日には衆目を集め、人に慕われることも多いが故に、「美人薄命」でその死を惜しむようになったのであろう。27歳という若さで白血病で亡くなった夏目雅子さんもその一人。
(瀬戸 2010/03/28執筆)