日本語に活きる中国故事

「百発百中」で敵を仕留める狙撃シーン

中國故事

【日本語に生きる中国故事】「百発百中」で敵を仕留める狙撃シーン

「リーアム・ニーソン、百発百中で敵を仕留める狙撃シーン 映画『マークスマン』本編映像」(ORICON NEWS、2022.1.5)

これは、今月7日に公開された映画の紹介記事。「リーアム扮するジムが、“最強の元狙撃兵”という肩書きを遺憾なく発揮するクール&ハードな狙撃シーン」が展開されるようで、劇中のワンシーンが次のように描写されている。

「退役から時間が経ってもなお錆びることないジムの【百発百中】の神業に、麻薬カルテルを乗せた車は10回転以上しながら激しく横転するのだった。」

「百発百中」とは、文字通り「100回発して100回命中する」ということで、本来射撃や弓に使われるのだが、それが転じて、『株式投資 これができれば百発百中』とか『3男1女 東大理Ⅲ合格百発百中 絶対やるべき勉強法』のように、100%的中するという意味でも広く使われる。

「百発百中」は、次の故事に由来すると言われる。

楚の国に養由基(ようゆうき)という弓の名手がいた。柳の葉から百歩離れて弓を射たところ、【百回射て百回ともそれ(柳葉)に当たった】。(史記・周本紀)

【 】の部分の原文が「百發而百中之」で、ここから現代中国語でも使われる「百發百中」という四字熟語が生まれ、日本語にも定着したということである。

ところで、中島敦の『名人伝』は、射術の奥義を極めようとする者の話で、その中に、明らかに上の故事を題材にしたと思われる描写が見られる。

弓の名手・飛衛から奥儀伝授を受けた紀昌は、「百歩を隔てて柳葉を射るに、既に百発百中」の腕前となったと描写されているほか、古の弓の名人として、太陽を射落とした羿(げい)と並んで養由基の名前が出てくる。中国古典に造詣が深かった中島ならではの作品と言えよう。

さて、百発百中の腕前となった紀昌はさらに奥義を極めようと、霍山(かくざん)の頂に甘蠅(かんよう)老師を訪ね、そこで、「見えざる矢を無形の弓につがえ」て、空高く飛ぶ鳶を射落とす「不射之射」の奥義を目の当たりにして慄然とするのであった。「不射之射」とはいかなるものか、一読をお勧めする。

(瀬戸 2022/1/8執筆)

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