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テレワークで「一挙両得」

中國故事

【日本語に生きる中国故事】テレワークで「一挙両得」

「『テレワーク』導入で一挙両得…社員は仕事と育児・介護を両立、企業側は通勤費など経費削減 全社員に導入の企業も」(THE SANKEI NEWS、2018.3.20)

記事のタイトルを見た時、このコロナ禍で増えたテレワークのメリットについて紹介しているのかと思いきや、2018年3月の日付。当時は、テレワークを導入しているのは、従業員数301人以上の企業で20.4%、50人以下の小規模企業ではおよそ3%という状況であったが、テレワークを導入してみると、社員にとっても企業側にとっても「一挙両得」であったということが具体例を挙げて紹介されている。

今回のコロナ禍が始まった当初は、企業も学校もあたふたしながらテレワークやオンライン授業の環境を整えることからスタートしたものであるが、記事に紹介されている企業はおそらく然したる混乱もなく、うまく対応できたのではなかろうか。

ところで、「一挙両得」ということばは、前漢末に劉向(りゅうきょう、紀元前77年~紀元前6年)によって編まれた『戦国策』の次の故事が元になって生まれたと言われる。

秦の将軍・司馬錯(しばさく)と遊説家の張儀が、秦の恵王の前で論争した。張儀が韓を攻めるべきだと主張するのに対して、司馬錯は蜀を攻めるよう主張してこう言った。

「蜀を手に入れれば,領土を広げることができ、その財を得て、民を富ませ兵を補うことができます。民を傷つけずして、蜀は秦に服するでしょう。故に、蜀一国を征服しても、天下の人々は横暴だとか貪欲だと見なさないでしょう。これで、【一度の挙兵で名誉と実利の両方を得ることができます。】さらに又、蜀の暴虐と乱脈を正すという名目も立ちます。」

恵王は結局、司馬錯の意見を聞き入れて、蜀を攻めることにした。

この故事の【 】の部分の原文が「一挙而名実両附」(一挙に名と実の両方が付く)で、ここから「一挙両得」という表現に派生したと言われる。

(瀬戸 2022/1/5執筆)

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